声楽家・アナウンサーなど、「声のプロ」の方の中には、ノド枯れや声枯れに悩む方が少なくありません。声の出づらさに焦り、無理に練習を重ね、かえって症状が悪化した方もいるのではないでしょうか。また、喉の不調ではステロイド治療が一般的ですが、副作用がつらく体に合わない方もいます。
そこで、ノド枯れ・声枯れを鍼灸で治療する効果について解説します。
喉・声に対する鍼灸治療
詩庵では、問診を重視しています。
患者さんひとりひとりの症状や環境を踏まえ、東洋医学と西洋医学の考え方を融合したアプローチで治療しています。これにより、
・症状の原因や体質を根本的に改善して治す
・痛みなどの症状そのものを特定して治す
という2つの面からの治療が可能になります。そのため、患者さんに応じた、その方にとっての最善の治療を行うことができるのです。
また、声のプロの方には、「明日の本番までに声枯れを治したい」「ノド枯れを即効で治してほしい」という方も多いです。詩庵では、声の状態を改善し自然治癒力を高めつつ、1日も早く治したいという患者さんのご要望にお応えしています。
1. 喉の周辺の粘膜を強化する
刺鍼治療により、血流改善、熱の調整を行います。喉の周りの粘膜の血流が改善することで、粘膜が潤い、炎症の状態が改善します。
発声や歌唱によって、長時間喉に負担がかかると、喉がカスカスになったり、唾液を飲み込む際に違和感が生じる場合があります。この段階で鍼治療を受けておくことで、咽頭炎や声帯結節、ポリープに悪化することを防ぐことができます(鍼で粘膜の状態が改善した患者さんの声)。
2. 呼吸筋の緊張を緩めて声を出しやすくする
呼吸に関連する筋肉はいくつもあります。筋肉が固まっていると、息を吸ったり、吐いたりする力が弱まります。すると、無理に呼吸をしようとして喉に力が入り、声帯結節や声帯ポリープの原因に繋がります。
刺鍼によって、筋緊張を緩めることで、短時間で声を出しやすくすることができます(声帯結節が2日で改善した患者さんの声)。
3. 喉のむくみを改善し、声帯のピントが合いやすくする
声帯や、声帯に繋がる筋肉が生理前にむくむことがあります。声帯周辺がむくと、声が出ずらくなり、歌いにくさに繋がります。この状態で無理に声を出すと、声帯に負担がかかり、声帯結節や声帯ポリープの原因になります。
鍼治療には、リンパ等の流れを改善し、むくみをとる作用があるため、声帯がくっついて振動しやすくなります(生理前のむくみが改善された患者さんの声)。
4. 胸郭・姿勢のゆがみを改善し、呼吸をスムーズにする
大きな声を出したり、歌唱をしようとすると、腹筋に力が入ります。すると、体は自然と前屈し、背中が丸まる状態になります。このような姿勢でいると、胸郭に空気が入りにくくなります。無理に空気を吸い込もうとすると、胸、背中、喉の筋肉が緊張し、結果的に声帯結節や声帯ポリープの原因になっていきます(鍼とカッピングで高音が出るようになった患者さんの声)。
5. アナトミートレインに関連した呼吸筋のアプローチ
アナトミートレインとは、筋肉のつながりのことです。つながったソーセージのように、体の筋肉も筋膜によって繋がっています。足の筋肉を緩めると、腰の筋肉が緩み、腰の筋肉が緩むと首の筋肉が緩むというように、体のほかの場所への治療が、喉に作用するのです。
呼吸筋だけを治療しても、症状は改善します。しかし、関連する脚や手の筋緊張も緩めることで、患部だけを治療した場合よりも大きな効果があり、治療効果を持続させることができます(全身へのアプローチで喉の不調が改善した患者さんの声)。
問診と仮説検証で患者さんごとにベストな治療を
詩庵では、カウンセリングを重視しています。特に初診では、患部の症状だけでなく、日常生活についても伺います。そして、三段階の仮説検証の手法により、患者さん一人一人にあったベストの治療法を探り出します。
1. 望診の徹底
顔色、肌の状態、姿勢のゆがみなどを確認し、患部と身体の状態を推測します。
2. 聞診の徹底
声のトーン、声のかすれなど、喉の状態を確認します。
3. 問診の徹底
患者さんが感じている症状、身体の状態、心配事、日常の様子などを伺います。現在の症状が、どのような原因で生じているかを探ります。
4. 触診の徹底
喉が痛い、痰が絡む、飲み込むと違和感があるなどの症状が、経絡(ツボ)や反応点(トリガーポイント)を押した状態で、どのように変わるか、改善するか憎悪するかといった変化を見て検証します。
これらの診察、ヒアリングを徹底して行うことで、呼吸筋だけでなく、全身の筋肉の硬さ、動きの悪い部分、滞っている部分を確認します。
患部だけでなく、全身にアプローチし、必要な刺鍼を行うことで、治療の効果を高めていきます。
喉の不調に多い症状
声帯結節と声帯ポリープ
声楽家、シンガーなどに多い喉の不調の症状が、「声帯結節」と「声帯ポリープ」です。
「声帯結節」は、喉を使いすぎて表皮細胞が肥厚して炎症を起こした症状です。喉の声帯にペンだこ状のこぶができ、高音がでにくくなり、痛みを伴う場合もあります。
「声帯ポリープ」は、喉の酷使によって声帯が内出血し、できた血腫がポリープ状になる症状です。声帯が閉じず振動しにくくなるため、声がかすれやすくなります。
この2つは似ているようですが、原因や症状が異なります。
声帯結節 | 声帯ポリープ | |
原因 | ・喉の酷使 ・習慣的に大声を出す、歌う、叫ぶなどの慢性的な刺激がある ・継続的な声帯への刺激により、粘膜が硬くなり、結節になる | ・喉の酷使 ・風邪などで喉が炎症したときに喉を酷使すると血腫ができる ・血腫ができた状態でさらに喉を酷使するとポリープになる |
症状 | ・声枯れ、かすれ ・空気が漏れるような声 ・声の調子が変わりやすい ・日によって変動する | ・声枯れ、かすれ ・空気が漏れるような声 ・つばを飲み込むと沁みる |
急性咽頭炎と慢性咽頭炎
喉のトラブルとして多いのが「咽頭炎」です。
咽頭炎は、喉の粘膜が主に細菌やウイルス感染を起こし、炎症が生じる症状です。風邪などで急性の炎症が生じる急性咽頭炎と、慢性化した咽頭炎では、症状が異なり、治療のアプローチも変わってきます。
急性咽頭炎 | 慢性咽頭炎 | |
原因 | ・細菌やウイルス感染 | ・細菌やウイルス感染 |
症状 | ・喉の痛み ・咳や痰が出る ・発熱や倦怠感を伴う ・飲み込むときの喉の痛み ・耳の痛みを感じる場合がある | ・喉の痛み ・咳や痰が出る ・咳ばらいをよくする ・少し声がかすれる ・飲み込むときの喉の痛み(軽度) |
声帯結節や急性咽頭炎で無理に声を出すと余計に悪化する可能性があります。
声が出なくなるその前に、適切な治療を受けることが大切です。